ウルトラブースト日記

僕は右利きだが、スマホはいつも左手で使う。だから、スマホに入ったPASMOを改札機にタッチするときは毎回フラストレーションを覚える。

少し仕事の余裕ができたので、久しぶりに外に出かける。渋谷に向かうため電車に乗ると、気分が少し鬱々としてきた。そういえば僕は、電車に乗っている時間があまり好きではなかった。そんなことも忘れていた。

adidasのスニーカーを買いに来た。ウルトラブーストというランニングシューズが狙い。ランニングを始めるわけではなく、普段履きとして使うためだ。

僕は以前、ひどくスニーカーにハマっていて、今となってはちょっとどうかしていると思うほどの数を買っていた。しかしその大半はもう手放してしまった。気持ちの赴くままに手をつけていたけど、いつまでも履き続けたいと思えるものはほとんどなかったのだ。その時の気分に任せて靴を買っても、僕の気分の方はすぐに変わってしまう。でもその一方で、履き心地が好きだと思える靴は変わらなかった。当然と言えば当然かもしれない。

最近になって、ウルトラブーストというやつはすこぶる履き心地がよいという評判を目にした。そのせいで、ふたたび気持ちが昂ってしまった。見た目としても割と好きな形だった。どうやら僕はランニング用っぽい形が好きらしく、これまでもそういうものばかり買ってきた。よくあるバッシュ系は一つも買ったことがない。

店にいるスタッフは全員サッカーのユニフォームを着ていた。それがなぜなのかがしばらくわからなかった。

ウルトラブーストを見つけたので、いざ履いてみる。たしかにいい感じがする。普通の靴と大きく違うのが、アッパー全体がニット生地になっていて、大袈裟に言えば靴下みたいに足にフィットするところ。ニット生地の靴はたまに見かけるけど、総じて独特のフィット感がある。快適なものも多いけど、このモデルはちょっと着圧が強すぎる。ランニング用だからだろうけど、一日ずっと履くにはつらいだろう。

残念ながら今回は断念かと思いかけたところ、近くにあった、ウルトラブースト DNAという別シリーズが目に入った。ライフスタイル向けのウルトラブーストということらしい。手に取って調べてみると、アッパーが普通の靴とニット系の合いの子のような作りになっていた。このおかげで、強い着圧に頼らずに足をホールドできる。というのも、純粋なニットとして足をホールドしようとすると、立体的な構造として足型を包み込むことができなくて、着圧に頼らざるを得なくなるからだ。かれこれ一時間近く悩んでから、意を決してこれに決めた。

ウルトラブースト以外のスニーカーも眺めてみて、「ああ、これ欲しいな」と思うこともあったけど、もちろん買わなかった。それは自分が買うべきものではないとわかっているので。今になって考えてみると、気になったスニーカーがあっても別に買わなくてもいい。店に飾られているものを眺めているだけで十分楽しめるから。というか、むしろその時間が気持ちの一番のピークなのだと思う。それに、自分の狭い家に飾って満足するよりも、暇があるときにいろんな店を巡ってたくさんのスニーカーを見た方が多幸感がある。

その後、帰路にある「いきなり!ステーキ」に入った。この数年で、出かけた帰りには立ち寄るのが当たり前になった。普通に出社する生活になればこの習慣もなくなるかもしれない。

家に着いてから、改めて履いて外を歩いてみた。家に帰ってから冷静になると、「なんか違う」となることがたまにあるけど、幸い今回はそうならなかった。足と一体化して、肌の一部になったと錯覚するほどよくフィットするし、足の運びが本当に軽くなった。これからも長く履いていけそうなので満足している。